Office Guriの諸橋直子です。
- JADP認定薬膳インストラクター
- ADP認定中国漢方ライフアドバイザー
- 日本ペットマッサージ協会認定 ペット東洋医学アドバイザー
の有資格者です。
この記事では「犬の薬膳は初めて!」という入門者向けに「薬膳とは何か?」という基本事項を解説していきます。
「薬膳」とは?
薬膳は「中国古典医学=中医学」における「食餌療法」です。
薬膳では食物にはそれぞれ「薬効」があると考えています。
例えば漢方薬の材料になる「生薬」。私たちが普段口にする日常的な「食材」。口から入るすべてのものは薬効を持つ。これが基本の考えです。
この食物の「薬効」を犬の個別の状態に合わせて用いるのが薬膳です。
薬膳の目的
- 健康維持
- 健康増進
- 病気の治療
- 予防
- 回復
*食事のみで病気を治療することは不可能です。ここでは中国古典医学での「薬膳」の位置付けについて解説しています。病気の治療は必ず病院で獣医師の元で行ってください。薬膳はあくまで補助手段のひとつです。
食材を選ぶ際、注目すべきこと
薬膳は「犬の体の状態」に合わせて食材を選ぶことが基本です。
その際チェックすべき項目は以下の通りです。
- 犬の年齢
- 体質
- 体調
- 生活環境
薬膳は「予防」が中心
薬膳の基本的な考え方は「病気予防のための食事」です。
食事による健康管理専門医の存在
古代中国では皇帝専属の「食医」という役職が存在していました。これは食事による健康管理を徹底し、病気を未然に防ぐためのポジションです。
周礼(しゅうらい)という前漢末期〜戦国時代末期に成立したとされる書物に4つの医師の種類の記載があります。
- 食医
- 疾医(内科医)
- 瘍医(外科医)
- 獣医
4つの医師の中で「食医」が最高位とされてきました。
中国古典医学では「食事が体に与える影響」を重視していました。そのため食事を「病気の予防」「健康長寿」の目的で研究・実践していたことが伺えます。
犬に薬膳手作りごはんを取り入れる際もこの「病気の予防」「健康長寿」が基本の考え方となります。
「治未病」 | 未病を治す
「未病」とはまだ病名がつかない、発症する前の段階の体調不良の状態を指します。健康と病気の間のグレーゾーンのイメージです。
病院に行ってもはっきりした病名はつかず「様子を見ましょう」と言われ治療対象にならないような状態ですね。
動物病院でこう言われた場合、飼い主としては非常に不安になりますが、薬膳ではこうした「グレーゾーン=未病」の状態のうちにしっかり対応する、というのが基本です。
未病を治す=早期発見・早期の治療開始
「未病」にはもう一つ意味があります。それはもし病気になった時は「早期治療」を行うこと。
病気の悪化を防ぎ、回復を図る際にも食事は大切な役割を担います。
犬の薬膳メニュー、どう組み立てる?
薬膳メニューの組み立て方はいろいろな方法がありますが、犬の薬膳手作りごはん初心者の方は、以下の基本的な考え方を参考にするのがおすすめです。
1:季節に合わせる
薬膳では季節を「五季」にわけて考えます。
- 春:代謝UPの季節。酸味で「肝」を整え、甘味で「脾」を養う
- 夏:汗をよくかき心機能が活発に。体の火照りを冷ます「涼・寒性」食材
- 長夏:胃腸の健康を損ないやすい季節。気を巡らせ、水分代謝を促す食材
- 秋:乾燥による呼吸器が影響を受ける。「肺」を潤し乾燥を防ぐ食材
- 冬:腎が活発になる季節。体を温め、エネルギーを蓄える食材
2:五臓の働きを良くする食材を選ぶ | 五臓と帰経(きけい)
中医学では体の内臓と機能を「五臓」という概念で表します。
a.五臓(ごぞう)
- 肝:肝臓及び肝機能。造血作用、精神安定
- 心:心臓及び心機能。集中力、精神活動
- 脾:消化器及び消火機能。食物を消化・吸収しエネルギーに変える
- 肺:呼吸器及び呼吸機能。全身にエネルギーを送る。皮膚と被毛を潤す
- 腎:腎臓及び腎機能。生命維持・成長・生殖エネルギーの貯蔵
中医学で言うところの「五臓」は現代医学での臓器の機能よりも、もう少し幅広い機能と概念で捉えられています。
例:「脾」は「脾臓」ではなく、胃腸などの消化器全般を指します。この違いは初心者の方が良くわからず、つまずくポイントなので注意してください。
b.帰経(きけい)
薬膳では「食材」にはそれぞれ「薬効」があり、さらにその薬効が「体のどの部位に効くか」を定義しています。
この薬効が働きかける先を「帰経(きけい)」と呼びます。
例:「鶏肉」の帰経は「脾・胃」です。これは鶏肉の持つ「甘」と言う薬効が消化器に働きかけることを表します。
体の臓器を特に手当てしたいのか?によって食材を使い分ける際にその「臓器」にあった食材を選ぶことがポイントです。
3:体質に合わせる
犬の体質を8つに分類し、それに合わせた食材を選ぶ方法です。初心者には、以下の8つの分類が理解しやすく、おすすめです。
- 気虚(ききょ):臓器の機能低下
- 気滞(きたい):代謝機能の滞り
- 血虚(けっきょ):血液の量と質の不足
- 瘀血(おけつ):血行不良
- 陽虚(ようきょ):臓器機能の衰退
- 陰虚(いんきょ):体液の不足
- 水毒(すいどく):水分の代謝異常
- 陽熱(ようねつ):臓腑機能の亢進
まずは1品、犬の体に合わせて選んでみよう
薬膳というと、特別な漢方薬や食材を使った料理と誤解されがちですが「体に合わせた食材選び」が基本です。
例1:胃腸が弱い犬のファアースとチョイス | 鶏肉
胃腸が弱い犬であれば、鶏肉がおすすめです。鶏肉は薬膳では「胃腸の働きを助け、体にエネルギーを補う食材」と考えられています。
鶏肉を柔らかく煮た「鶏粥」は胃腸が弱く、虚弱体質の犬におすすめです。
例2:暑さに弱い犬 | おやつを「きゅうり」に変えてみよう
蒸し暑い季節が苦手、いつもだるそうにしている、夏は食欲がない。そんな犬には水分補給も兼ねて、おやつにきゅうりを与えてみましょう。
きゅうりは喉の渇きとほてりを鎮める薬膳食材です。水分含有量も多く、食べるだけで水分補給になります。
夏の体調不良予防にもなります。
まずはやれる範囲から
薬膳は「普段の食事」から健康を作る食事法です。そのためには無理なく、長く続けられるのが一番。
難しく考えすぎず、まずはやれる範囲で「犬にあった食材を1品プラス」から始めるのがおすすめです。